第2回 -「いつか」は、いつか

「希望を込めて想う『いつか』は、いつまでも訪れることがないのかもしれないけれど、
恐れている『いつか』は突然やってくる」 (リリーフランキー『東京タワー』より)


先日、わたしの大好きな上司が亡くなりました。
享年、55歳。
何の前触れもなく、ただ、突然に。

「倒れた」と聞いてから、4日目の朝のことでした。


リリーさんの『東京タワー』を読んで、上司と2人、大号泣したのはついこの前。
そして、昨日、わたしは上司から借りることになっていた『その日の前に』を読み終えました。
両作品とも、そのテーマは「死」。
何だか、予感めいたものを感じてしまうのは、わたしだけでしょうか。


『東京タワー』は、実話に基づいた小説で、リリーさんと、リリーさんの「おかん」(時々、オトン)の物語。言わずと知れた大ベストセラーなので、ほとんどの人が知っているのではないかと思います。そして、この本を読んだ人の多くは、リリーさんの想いと自分とを、ついつい重ね合わせてしまうのではないでしょうか。


もちろん、わたしもそのひとり。


わたしには、家を出た経験があるわけでもないし、東京に暮らしたいという願望を持つこともなく、ただ、東京に暮らしてしまっているだけです。だから、地方から東京をながめることも、恐らくできませんし、母親に対する思い入れも、男性のそれと比べたら、そこまで強くない。でも、それなのに、心にぐっと染み入るものがあるのは、行間から溢れ出すリリーさんの優しいお人柄のせいかもしれません。


『その日のまえに』は、永遠に続いていくかのように思われた昨日までの暮らしが、愛する人の死によって不意に断ち切られてしまうという、「死」というものと対峙しながら揺れ動くこころを描いた連作短編集。愛する人を亡くす不条理さと、昨日までいた人が突然いなくなってしまうという不思議さと、残された人生に悔いを感じる気持ち。それぞれの「死」への想いが丁寧に描かれています。


「僕は、和美のことを忘れる。
 けれど、必ず、いつだって思い出す」    (重松清『その日の前に』より)


時間がたてば、その人のことを思い出さない時間は確実に増え、今の悲しみや不安も薄れていくのでしょう。でも、絶対に、その人のことを忘れ去ることはない。そういうことなのだと、思います。そして、そんな人が心の中にたくさんいることが、人生の豊かさにつながっていくような気がしています。


こうして実際に、いくら身近な人の「死」に直面しても、いくつ本を読んでも、わたしには、やっぱりまだ、人が死ぬことの意味が分かりません。
ただ、後になってから気づくことが、失ってはじめて分かることが、人生にはすごくたくさんあるのだなあということの本当の意味は、やっと、今、分かりました。 

大切なものは、自分の目の前にあるのに、人はすぐにそれを忘れてしまうのですね。


「いつか」ではなく、今日。
今、この瞬間。


12月の空を見ながら、そんなことを、ただひたすらに考えています。


・・・と、くくると聞こえはいいのですが、今回の一件、ちょうど本の入稿日と重なってしまい、いつも以上に慌しい入稿をしてしまったところ、見本日の3日前に印刷会社さんから電話が。


印→「ひょ、表紙が白いんですけど!!!」
私→「???」
  「えっ、し、しろい???」
  「あ、デザイナーさんから、入稿してもらってない、かも・・・」


あわわわわわわわ。バタッ。(倒れる音)


悲しみが一瞬にして吹き飛び、顔が青ざめていったのは、言うまでもありません。
それでも見本日に何とか間に合ったのは、やっぱり上司がしっかり見守っていてくれたからとしか思えません。最後まで、迷惑かけてしまってごめんなさい! 


わたしが空に向かって謝り続ける日々は、まだまだ続いていきそうです。(つづく)



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